スタートはひとつの出会い
モモ果汁発酵液の開発

私たち松山油脂では、肌を「内側と外側」の両面からすこやかにする植物について研究し、栽培と原料への展開を進めています。その一環として、松山油脂富士北麓ラボラトリー(山梨県)で研究開発を進めたモモ果汁発酵液に、角質層の水分保持効果とキメ・毛穴の改善効果があることを見出しました。

2017年秋、私たちは山梨大学から酵母を用いた技術供与の提案を受けました。これは、地球温暖化抑制に有効と考えられているバイオ燃料のもととなる油脂開発の研究技術で、山梨県産のモモ果汁を原料にしていることも特長でした。山梨大学は、松山油脂の「安全性と環境性、そして有用性のバランスを満たすモノづくり」に共感し、「松山油脂ならば」と、この技術とそれに携わる長沼孝文博士を紹介してくれました。長沼博士は、微生物研究を通して環境問題や社会貢献に取り組んでおられます。長沼研究室では、モモ果汁に含まれる糖を分解する(発酵)過程で、油脂と多糖類を効率的に産生するリポミセス酵母の一種を見つけ出し、人工的に生育・増殖させるシステムの確立に成功していました。

松山油脂では、富士河口湖工場のほど近くに、新たに「富士北麓ラボラトリー」を設立。長沼研究室から、技術と機器の供与を受けました。リポミセス酵母は、油脂を体内に蓄積すると同時に多糖類を産生します。松山油脂では、それらを化粧品原料にすることに挑戦したのです。現時点では、油脂は生産量が乏しく化粧品原料とすることが困難なのですが、多糖類を含む果汁発酵液(以下、発酵液)の有用性を発見するに至りました。

発酵液の開発にあたり、初回モニター7名(20代~40代女性)の肌で発酵液単体の保湿性を試験したところ、水と同等の作用しか認められませんでした(塗布後10分、3回測定した平均値)。ところが、当社既存品と、既存品中の水の一部を発酵液で置換した試作品をモニターが比較使用したところ、使用直後の肌の水分量が、平均7%向上していることがわかりました。先に述べたとおり、発酵液にはマンノース、ガラクトース、グルクロン酸の3成分が含まれています。これらが既存品に配合されている成分と組み合わさって相乗効果を発揮し、水分量を向上させたものと私たちは推測しています。どのような成分とどのような比率で組み合わせ、どのような製品をつくれば最も効果的なのか、探求を続けていく計画です。

 

富士北麓ラボラトリーがある山梨県は、全国に誇る果樹の産地として発展し、果樹農業は、山梨県の農業生産額の50%以上を占める基幹産業になっています。なかでも、モモ、ブドウ、スモモは全国一の収穫量を誇ります。しかし、生産されるモモのなかには、キズや過熟のために青果としては出荷できず、ジュースなどの加工用に回っているもの、摘果されて埋め立てられたり、焼却処分されたりするものもあります。私たちはこの点に着目し、青果としては出荷されないモモを発酵液の原料にすることとしました。

 

ところが、現在は山梨県でも後継者不足によるモモの栽培面積と生産量の減少、耕作放棄地の増加が進んでいます。そこで、私たちは、原料モモを通常の流通価格より高値で購入し、生産者の方の意欲を引き出だそうと考えました。原料モモを化粧品の素材に転換して付加価値を高め、適正な価格で販売し、利益を生産者に還元するのです。その結果、意欲を高めた生産者の方から再度モモを買い取り、化粧品の素材に転換する、販売する、利益を還元する、という循環をつくり上げます。これは、価値がないとされている物(無価物)を価値のある物(有価物)へと変える、持続可能な地域振興へとつながる取り組みでもあります。